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スイス(チューリッヒ、ジュネーブ)でのぬりえ調査報告(2)

7月のぬりえ美術館便りでご報告したスイスの調査の第二弾です。

インタビュー
1.小学校のアイヒ校長先生(先生として20年、校長になって6年のベテラン先生)

スイスの文化の中では、ぬりえは幼稚園に行く前の子ども達楽しみというものに位置づけられています。幼稚園では、塗るということは、きちっと塗る学習になっています。
先生ご自身は、子どもの頃、ぬりえが好きで、特にマンダラが好きだったそうです。集中できるので、塗っている間の静けさが特に好きだったそうです。

2.作業療法士のソニアさん(指圧(アジアの健康法)+西欧の健康法を学ぶ)
患者は病気、事故、脳梗塞、パーキンソン、拒食症、うつ病等の方々で、日常生活に関する働きのセラピーをし、日常生活を取り戻すことを助けることをしている。
治療法の中で絵を使うことがある。心の病の人には紙と鉛筆を与えても、何も出来ないので、マンダラなど簡単な構成の絵を塗らせることがある。
但しぬりえをしたことがない人にさせても効果があるとは言えないそうで、ぬりえをしたことがある、またはぬりえが好きな人に塗ってもらっている。

3.30年間保母さんをしていて今はイラストレーターのシャイトさん

現在も3~4才の子ども達に週に一度絵のワークショップを開催している。シャイトさんは子どもの頃絵も好きだったが、ぬりえも大好きだった。
ぬりえの効果は、子ども達に「集中力、絵心を学ぶ、知識として自然とか世の中にどのようなものがあるか、知ったり、学んだりできる」という。絵だけでなく、ぬりえもあって、選択肢がある方が良いと思っている。
物語のぬりえ、動物、自然のぬりえなど、子ども達のファンタジーやイメージを広げることができる。 枠線があることは、1.楽であり、2.達成できるという2つの心地よさがある。

シャイトさんからは、デザインした紙の絵にスイスの伝統的なスティッフリー(stupferli)という先のとがった穴あけのピックで穴をあけ、糸で縫って、その糸の間に色を塗った「絵」をプレゼントしていただきました。これも考えるとぬりえのようなものだと思いました。

4.心理学と教授法を学んだドイツ語教師であるセビエリさん
ぬりえは小学生が字を書くのに、自分の手先をコントロールするのに重要な役割をしている。ペンの握り方、どれ位の強さで書くかという筆圧など、スキルを見に付けることが大事であるので、その1つの有効手段である。そのような細かい動きというものは、訓練をしないとだめなものであるから、ぬりえ等を通じて学習することはとても大事である。
又動き回る子どもがいるが、静かにぬりえをすることにより、自分を操縦することができるようになる。 

5.チューリッヒ教育大学造形美術学部のモラウェイツ先生
「日本にはぬりえの文化がある」
先生は子どもの頃から自由に絵を描くことの方が好きな子どもで、小学校一年生のときにぬりえの宿題がでて、上手く塗れなくて先生に叱られて、さらにぬりえが嫌いになったという経験をお持ちでした。
造形美術を考えるとき、その中でのびのびと出来るものが沢山あるし、子どものやる気を大事に思っているので、あえてぬりえをする必要がないと思っている。
子どもが自由の発想のままに描くのが良く、それは子どもの成長のステップの中で大事なことである。ぬりえを与えることで、最終目標を与えることになって、自信を失わせることになるので、マイナス効果であるとぬりえに否定的なお話が続きました。
そこで、日本では脳の活性化のために大人がぬりえをすることが流行していること、ならびにぬりえ美術館で開催している大人のぬりえサロンのぬりえ作品のファイルをお見せした。
「スイスで大人がぬりえをすることはけして考えられないので、日本にはぬりえの文化があるのかもしれない」と発言されました。
 
スイスのチューリッヒや以前調査したドイツで、ぬりえに対してどちからというと否定的な意見が多い中で、「何故日本人は大人でもぬりえをすることに抵抗がないのか」という疑問を考えるきっかけを与えてくれました。
日本ではぬりえが脳の活性化に良いということが2006年ごろから言われるようになり、ひとつにはその理由はあるとしても、何故いとも簡単にぬりえを取り入れて、老人のデーサービスなどでぬりえをしている実態があるのかを考えてみると、明治の時代から子どもの頃にはぬりえをしているという歴史やぬりえを受け入れる文化的な背景があるということを、モラウェイツ先生が気付づかせてくれたことは私にとって大変重要な一言でした。

投稿者:Nurie |投稿日:11/07/23 (土)

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