スイス(チューリッヒ、ジュネーブ)でのぬりえ調査報告(4)

□オネ地区にある保育園と特別編成保育園
園長先生のお話
小さいクラスで、ぬりえをコピーして使わせていたが、線を気にせず、ぐじゃぐじゃに塗っていたので、これで意味があるか、問題になりました。
そこで、3~4才のクラス(もうすぐ幼稚園児になる年代)の子ども達にぬりえをさせるときに、「わく線からはみ出さないこと」という指導をしました。それで、改善されました。ぬりえを止めようかと一時は思いましたが、どのように使ったらいいかが分かってきました。ぬりえは字を書くのに役立つものであると思っています。

現在は、教室の中の棚の中にぬりえ(動物、家、少女)のコピーが入っているので、自由に好きにぬることができるようになっています。
保育園の中の先生の間では、子どもがぬりえをしたいかどうかという「意志」が大切と考えています。
幼稚園に行く前の年代の子ども達には、例えばサーカスの話をしたら、サーカスのテントの絵を描きましょうと言って、テントの色はどんなか考えさせながら塗るようにしています。
年齢が低い子ども達がする場合は、ぬりえをしたいという「意欲」を引き出すように気をつけています。例えば、モミの木のぬりえを塗るときに、写真を見せて、色、形を分からせるようにして、意見をださせるようにして、大人の意見をおしつけないようにしています。
まず、子どもの「意志、自由」を大切にしています。そのため画材も自由にさせ、選べるようにしています。
   
左:園内の様子、右:ぬりえの用紙などが入っている工作用テーブル付近

□園の方針
1.子ども達がリラックスして過ごせること。
2.子どもたちが自分に自信をもてるように、褒めてあげる。自分を信じられるようにしたい。
3.オネ地区は、17000人の地区で、南のアパート群には、政府の補助を受けている移民の人たちが住み、北は恵まれた人が住んでいます。貧しい親たちには、親たちにも自信を与えてあげないといけません。子どもを褒めると親達も自信をもつことができるようになります。
 
保育園の園児は、69人。キッチンがあり、10時にはおやつタイム。食堂があり、テーブルにクラス毎にすわり、一緒に食べます。その日のおやつは果物とパンでした。

□特別編成保育園
ギャルドリーと言って、午前と午後の「一時預かり」をしている保育園。
半日だけであれば、毎日来ても良いそうです。午前、午後、それぞれ25人預かっている。
玄関ロビーや広い部屋までの廊下部分などに、子ども達がつくった作品がずらっと展示されていて、アートに関心が高いことが感じられました。
ある作品は、廃物利用のものでしたが、立派な作品になっていました。アトリエ(工作室)には、テーブルと画材が置いてあり、様々な画材を自由に使って、作品を作れるようになっています。ぬりえはアトリエにおいてありますので、その部屋で好きに塗ることができるようになっています。

廃物利用の作品

子ども達の作品造りは、例えば、「北アメリカ」がテーマとすると、歌をきかせて、その関連のもの、バッファロー、馬、インディアン、羽飾りなどを作っていくそうです。
部屋の片隅にある「遊びのコーナー」は、3人までというルールが決められていて、3つのブレスレットが入り口にかけてあります。中で遊ぶ子ども達は、そのブレスレットをつけて「遊びのコーナー」に入って遊ぶのだそうです。
保育園にはキッチンもあり、毎週子ども達と一緒にお料理もつくるそうで、ピザ、果物のタルトなどをつくり、園内でたべたり、家に持って帰り家族と食べることもあるそうです。他の人にあげることも学習だと考えているそうです。
ここでは、何でもが学びの対象になっているのを感じました。
、「北アメリカ」がテーマの作品

ちょうど午前のグループが終わりの時間にあたり、おばあちゃんが迎えにきたりして
子どもたちは一緒に帰宅していきました。

インタビュー
1.Tamaraさん
16歳と2歳半のお子さんと赤ちゃんの3人の子どもさんをお持ちのお母さん。コンゴ出身で、国連関係のお仕事をされていたが、今は育児中です。
Tamaraさんご自身は、子供の頃にぬりえが好きで、沢山塗っていたそうです。今でも、子ども達と一緒にぬりえをされるそうです。
長男さんが小さい頃は、エネルギーが有り余って動き回っていたそうですが、色が好きで敏感であったので、ぬりえをさせたところ、 興奮も治まり、静かにしているようになったそうです。
現在、家族が座ってぬりえをしていると赤ちゃんもぬりえを見ているそうです。
Tamaraさんは、ぬりえは子どもの創造性を育てるために良いと考えています。子どもに与えるものは教育的観点から考えて、選ぶようにされているとのことで、教育熱心な方だと思いました。例えば、色をみることができるDVDや数字を学べる本など選んで与えているそうです。

2歳半のお子さんには、生まれる前からぬりえの本をたくさん買って準備していたそうで、現在年齢別のぬりえを塗っているそうです。
私がインタビューをしている間、2歳半のお子さんは、「ベビーアイシュタイン」というDVDを見ていました。それは色を教えるDVDで、楽しみながら色のミックスとか色の美しさ、楽しさを学ぶものでしたが、繰り返しそのDVDを見て楽しんでいるようでした。
ぬりえの影響は、2歳半のお子さんはまだ小さくてわからないが、16歳の長男さんは、今でも色のセンスがあり、色を塗ることが好きだそうです。
ぬりえは、前にみたものを再現するような創造性があり、ぬりえが創造性を壊すものだとは思っていない。白紙に最初から描くのは難しさがあると思うとぬりえに肯定的な意見でした。

Tamaraさんとお子さん達と一緒に。
 
まとめ
スイスの2都市を調査しましたが、チューリッヒ(ドイツ語圏)とジュネーブ(フランス語圏)ではぬりえに対する意見は同じではなく、それぞれの都市ごとに違いがあり、以前調査したドイツとフランスの調査結果と似たようなものになりました。チューリッヒ(ドイツ語圏)はドイツのように比較的否定的であり、ジュネーブ(フランス語圏)はフランスと同じように肯定的ということになりました。
その違いは言語の同じ国の影響であり、同じ言語の国の民族性から来るものなのかもしれませんが、日本という同一民族で同一言語である国からすると、不思議な印象になりました。しかも統一しないで、それぞれを生かして国を運営していくという形に触れて、世界にはいろいろな国の形態があるのだと知り、それでいいのだということに気付かされました。
 
同じ国でありながら、二つの考えがあるということは、考え方により、どちらが正しくて、どちらかが間違っているということではなく、いずれも正しくて、答えは一つではないということでもあると思いました。
例えば、白紙に自分で線を描いていくほうが、子どもにとってストレスがないととるか、線があるほうが子どもにとってストレスがないととるかは、「考え方」によるものであり、どちらが間違っているとはいえないのではないと思います。

ぬりえの使い方も、先生方それぞれに考えがあり、さまざまな使い方がありました。ぬりえを単に塗るだけでなく、子ども達の教育、指導の目標がどこにあるかを考えて、ぬりえの活用をしていくことが大事なことであると思います。

ドイツ語、フランス語、イタリア語にスイス語の4つの言語を持つスイスにおいて、調査をしたのは2都市でしたが、どちらかが正しい、間違っていることではなく、自分の考え方により自分の意見を主張をしてよいということを学びました。

世界は広いです。調査は始まったばかりです。これからも世界の国々でどのようにぬりえがされているのか、調査を続けていきたいと思います。

投稿者 Nurie : 13:11 | コメント (0) | トラックバック

2011年07月23日

スイス(チューリッヒ、ジュネーブ)でのぬりえ調査報告(3)

ジュネーブの調査
ジュネーブも湖、レマン湖の湖畔にある街です。レマン湖に吹き上げるジュネーブのシンボルの140メートルの大噴水(Jet d'Eauジェッドー)が有名です。
   

ジュネーブは、チューリッヒと比較すると猥雑とし街という印象でした。しかしその街には有名時計、宝石店などがズラッと並んでいます。
ジュネーブには又事務局、本部をおいている国際機関が、数多くあります。国際連合欧州本部、国際連合難民高等弁務官事務所、国際労働機関(ILO)、世界保健機関
(WHO),赤十字国際委員会等など。
スイスには、世界中のセレブが集まってきて、景観に優れた湖に別荘を持ち住んでいるそうです。そのためか、ジュネーブでは街中にポルシェが沢山走っていて、そのポルシェの後ろをさらに高級車であるランボルギーニが走っているのを見かけて、ビックリするとともに、スイスは豊かな国であることを実感いたしました。

ジュネーブの子供向け本屋さんのウィンドー
   
    
 
幼稚園の調査は、シャンシー村の小学校内の幼稚園とプレニーフォンテーヌ小学校内の幼稚園、オネ地区にある保育園と特別編成保育園を訪問、調査しました。

□シャンシー村の小学校内の幼稚園
   
教室内の展示の様子

学校の廊下から見える外の景色

学校の建物はモダンですが、小学校の手前には、野菜の畑が作られていて、昔懐かしい感じがする小学校でした。5月末でしたが、まるで夏のような日差しの朝でした。
幼稚園に入ると、子どもたちは椅子に座って待っていてくれました。このクラスは幼稚園の一年生クラスで、4才から5才の子どもたちで、その日の出席者は19名で、まず自己紹介をしてくれました。

先生はバレリー先生という目のパッチリとした小柄の可愛い先生でした。ぬりえということで、「はらぺこ青虫」の絵本をまず子ども達に絵本を見せながら読んで、その後で「蝶々」と「青虫」のいずれかのぬりえを子ども達に選ばせて、ぬりえをさせました。
子ども達はぬりえを自分のテーブルで好きな色を自由に使って、大変カラフルな蝶に仕上げていました。茶、青紫、青という地味な色合いでも、とてもシックに調和した蝶に塗っていました。
画材はマーカーとクレヨンを使っていました。絵が完成すると必ず名前をサインするルールになっているそうです。
ほとんどの子どもは、蝶々を選んで塗っていました。塗り終わると、先生はその絵を選んだ理由を子ども達に発表させました。その絵を選んだ一番の理由は、「蝶々は色が綺麗だから」、という回答でした。又青虫を選んだ園児は、「色を少なく使いたかったから」という理由でした。子ども達は、色が好きなんですね。

バレリー先生と。

■質問タイム 
その後、せっかく日本からお客さまが見えたというので、日本についての質問タイムになりました。
子ども達の一番の関心は、「東北の津波」のことでした。スイスでもテレビで放映されてその惨状を見ている子ども達は、とても心配していました。
その他、「日本の子どもたちも質問をするときには、手を挙げますか」という質問がありました。スイスでも日本と同様に手を上げますが、その手の指先が日本とは違います。人差し指で何かものを指し示すように、人差し指を1本伸ばして、手を挙げます。これはチューリッヒでも同じです。面白いですね。こういうことにも違いがありました。

その後は折り紙で舟を作ってもらいました。なかなか折り紙は難しいようで、時間がかかりましたが、とても楽しんでくれました。

□キティ人気
日本のキャラクターのキティちゃんが、スイスの子ども達にも大変人気があり、幼稚園の園児たちが、Tシャツ、ワンピース、靴などにキティちゃんの絵が入ったものを着ていました。

□プレニーフォンテーヌ小学校内の幼稚園

幼稚園一年生の4才から5才の園児、11名(2名お休み)。学校のお隣には公園が隣接していました。
ここでは、先生の説明を聞いたあとに、絵を描き、色をぬっていく作業をしていました。例えば、「家を描きましょう。家の特徴は、何ですか。瓦や壁の上は何ですか。ドアは・・・。」 それから人を描くときには、「目、鼻、口、手は2本ですね。足も2本ですね。耳もありますね。」等説明しながら子ども達への質問と回答を繰り返して、イメージを膨らませていきました。
「次に、マジックで下絵、枠線を描いていきましょう。下絵ができたら、色を付けます。裏には名前を書きます。よく、集中してください。・・・・」と説明の後に、それぞれに紙とマジックの黒いペンを渡しました。
子どもたちは、自分の好きなように、家と人を描いていきます。ある女の子は人物の表現は、お姫様を描いていました。綺麗に色も塗って、少しもはみ出していません。ぬりえが好きと思われました。
   
先生の指示を聞いて、下絵を描く子どもたち

お姫様の絵が完成。とても上手。

様々な線を描くことにより、アルファベットの字を書くための手先の運動になる。

先生のぬりえに対する意見
この幼稚園では、自由時間に、ご褒美としてぬりえをすることができるようになっているそうです。「私のぬりえ(Mes Coloriages)」というファイルを持っていて、子ども達の個人的な宝物だそうです。繊細な子どもは、こだわって描き、とても大事にしているそうですが、子供たちはぬりえをとても楽しんでいるそうです。
ぬりえの他の使い方としては、動物園に行った後に、動物の絵を塗らせるなど、子どもの経験に関するものを塗らせたりしているそうです。実際に見たものは、新鮮な記憶があり、ぬりえで表現して悦びを分かち合うことができると考えていました。
子どもによっては、見た通りを再現したいとこだわり、毛の流れまで気をつける子どももいるそうです。学年の最初と終わりでは、練習の成果で、ぬりえが上達しているそうです。

「私のぬりえ(Mes Coloriages)」のファイル

「効果」
1.鍛練, 訓練によって、先生の言っていることを理解し、守ることができるようになります。同時にリラックスしてすることが大事です。
2.小さい子ども達にとって大切なことは、静寂な時間と集中することですが、それを
ぬりえが作ってくれることです。
と先生は答えられました。

その後、この幼稚園でも折り紙をしてもらいました。

投稿者 Nurie : 13:08 | コメント (0) | トラックバック

2011年07月23日

スイス(チューリッヒ、ジュネーブ)でのぬりえ調査報告(2)

7月のぬりえ美術館便りでご報告したスイスの調査の第二弾です。

インタビュー
1.小学校のアイヒ校長先生(先生として20年、校長になって6年のベテラン先生)

スイスの文化の中では、ぬりえは幼稚園に行く前の子ども達楽しみというものに位置づけられています。幼稚園では、塗るということは、きちっと塗る学習になっています。
先生ご自身は、子どもの頃、ぬりえが好きで、特にマンダラが好きだったそうです。集中できるので、塗っている間の静けさが特に好きだったそうです。

2.作業療法士のソニアさん(指圧(アジアの健康法)+西欧の健康法を学ぶ)
患者は病気、事故、脳梗塞、パーキンソン、拒食症、うつ病等の方々で、日常生活に関する働きのセラピーをし、日常生活を取り戻すことを助けることをしている。
治療法の中で絵を使うことがある。心の病の人には紙と鉛筆を与えても、何も出来ないので、マンダラなど簡単な構成の絵を塗らせることがある。
但しぬりえをしたことがない人にさせても効果があるとは言えないそうで、ぬりえをしたことがある、またはぬりえが好きな人に塗ってもらっている。

3.30年間保母さんをしていて今はイラストレーターのシャイトさん

現在も3~4才の子ども達に週に一度絵のワークショップを開催している。シャイトさんは子どもの頃絵も好きだったが、ぬりえも大好きだった。
ぬりえの効果は、子ども達に「集中力、絵心を学ぶ、知識として自然とか世の中にどのようなものがあるか、知ったり、学んだりできる」という。絵だけでなく、ぬりえもあって、選択肢がある方が良いと思っている。
物語のぬりえ、動物、自然のぬりえなど、子ども達のファンタジーやイメージを広げることができる。 枠線があることは、1.楽であり、2.達成できるという2つの心地よさがある。

シャイトさんからは、デザインした紙の絵にスイスの伝統的なスティッフリー(stupferli)という先のとがった穴あけのピックで穴をあけ、糸で縫って、その糸の間に色を塗った「絵」をプレゼントしていただきました。これも考えるとぬりえのようなものだと思いました。

4.心理学と教授法を学んだドイツ語教師であるセビエリさん
ぬりえは小学生が字を書くのに、自分の手先をコントロールするのに重要な役割をしている。ペンの握り方、どれ位の強さで書くかという筆圧など、スキルを見に付けることが大事であるので、その1つの有効手段である。そのような細かい動きというものは、訓練をしないとだめなものであるから、ぬりえ等を通じて学習することはとても大事である。
又動き回る子どもがいるが、静かにぬりえをすることにより、自分を操縦することができるようになる。 

5.チューリッヒ教育大学造形美術学部のモラウェイツ先生
「日本にはぬりえの文化がある」
先生は子どもの頃から自由に絵を描くことの方が好きな子どもで、小学校一年生のときにぬりえの宿題がでて、上手く塗れなくて先生に叱られて、さらにぬりえが嫌いになったという経験をお持ちでした。
造形美術を考えるとき、その中でのびのびと出来るものが沢山あるし、子どものやる気を大事に思っているので、あえてぬりえをする必要がないと思っている。
子どもが自由の発想のままに描くのが良く、それは子どもの成長のステップの中で大事なことである。ぬりえを与えることで、最終目標を与えることになって、自信を失わせることになるので、マイナス効果であるとぬりえに否定的なお話が続きました。
そこで、日本では脳の活性化のために大人がぬりえをすることが流行していること、ならびにぬりえ美術館で開催している大人のぬりえサロンのぬりえ作品のファイルをお見せした。
「スイスで大人がぬりえをすることはけして考えられないので、日本にはぬりえの文化があるのかもしれない」と発言されました。
 
スイスのチューリッヒや以前調査したドイツで、ぬりえに対してどちからというと否定的な意見が多い中で、「何故日本人は大人でもぬりえをすることに抵抗がないのか」という疑問を考えるきっかけを与えてくれました。
日本ではぬりえが脳の活性化に良いということが2006年ごろから言われるようになり、ひとつにはその理由はあるとしても、何故いとも簡単にぬりえを取り入れて、老人のデーサービスなどでぬりえをしている実態があるのかを考えてみると、明治の時代から子どもの頃にはぬりえをしているという歴史やぬりえを受け入れる文化的な背景があるということを、モラウェイツ先生が気付づかせてくれたことは私にとって大変重要な一言でした。

投稿者 Nurie : 13:06 | コメント (0) | トラックバック

2011年07月23日