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ぬりえ美術館便り(3月~5月)合併号(1)

「昭和20年~30年代のぬりえ作家展
~きいち、まつお、ひでを、フジオなど多くのぬりえ作家が活躍した時代~」

ぬりえ美術館では、日ごろは昭和20年~30年代のきいちのぬりえを中心に展示をしておりますが、開館7年目となる今年最初の企画展では、昭和20~30年代のぬりえ作家の作品をご紹介いたします。

昭和20~30年代は、少女の間でぬりえが大変なブームでした。きいちと同時代に数多くのぬりえ作家が活躍をしていました。きいちの話によりますと40名くらいの作家がいたと聞いております。しかし、ぬりえを描いたとしても売れ行きが悪ければ、続けていくことはできないということで、継続して名前が残っているのは、きいち、まつお、ひでを、フジオなどのぬりえでした。
それらの作家のぬりえを中心に、今回当時の珍しい作品をご紹介いたします。今年は、天皇・皇后のご成婚から50年の年にあたります。その時代の人気を反映したものが、子どもの世界にも見られました。美智子様ぬりえやきせかえ、芸能人のぬりえなどが売られていたのです。

当時の風俗、伝統、文化がぬりえの中に残っています。

どうぞ当時のぬりえの数々から昭和20~30年代という時代の息吹を
感じ取っていただければ幸いです。

きいち

少女の夢や憧れの世界を、伝統の行事や当時の流行、日常生活まで描いて、少女の心を満たしました。
きいちの描く世界は、豪華で華やかさがありました。例えば着物では、舞妓さんや花嫁さんの着物姿であり、普段着のものではなく、お出かけのときに着るようなよそゆきのものを描き、それが大人気となりました。
現代アートの第一人者である村上隆氏は、このようなぬりえを描いていたきいちについて、下記のようにコメントをしました。
「人間は、芸術を欲する存在じゃないですか? まだ貧しかったあの時代の少女たちの美へのあこがれに応え、想像力を喚起した。芸術家です」
2007年にドイツのベルリンで70代の女性の方に取材をしたことがありました。ドイツも日本同様に、第二次世界大戦に負けた敗戦国です。戦後、日本では、昭和22年(1947年)から「きいちのぬりえ」が存在しましたが、ベルリンではそのようなものがあったのか、お尋ねしてみました。
「ベルリンは、瓦礫の山でぬりえどころではなかった」と、その女性は答えました。考えてみますと、陸続きのヨーロッパでは、爆撃が激しく、ベルリンは相当な被害があったのでしょう。しかし、日本人の私は、「日本の方がもっと貧しかった」と思っていましたので、その回答にはびっくりしました。
日本は、貧しかったけれど、村上隆氏がおっしゃったように、きいちのぬりえのような美しい世界を楽しむことができ、夢や憧れの世界をぬりえを通してみることができたということは、幸せだったのではないかということを再発見しました。子どものお小遣いの5円や10円で買えるアートの世界。そのぬりえの世界に自分を投影させたり、想像の世界に飛んでいき、楽しんでいた時代でした。

流行物を描いたぬりえ「おばQちゃん」
ごく普通の家庭に住み着いた、一匹の間の抜けたオバケがひき起こす騒動を面白おかしく描き大ヒット。アニメ主題歌の「オバケのQ太郎」はミリオンセラーを記録し1966年のレコード大賞童謡賞を受賞。   『ウィキペディア(Wikipedia)』
フラフープやダッコちゃんなど、流行の品々が必ずぬりえに描かれています。
ぬりえは東京の駄菓子の問屋さんから全国に送られていました。地方の子どもたちは、ぬりえを通じて、東京での流行を知ったことと思います。

「テープにうたをふきこむの」
日本では1950年に東京通信機工業(現・ソニー)が紙テープ式のモデルを発売したのが最初である。テープレコーダーは、人々の生活に多く影響を与えた。この機械の登場により、人々は音楽を録音したり、自分や家族の声を録音したりした。
『ウィキペディア(Wikipedia)』 
大きなリールのテープレコーダーです。自分の声を録音して聞いたとき、自分の声がこのような変な声をしていたかしらとビックリしたものです。
掃除機や洗濯機なども、先端の物としてぬりえに描かれました。

「はなよめさん」
「何になりたいですか?」と聞かれると、当時の少女は、「花嫁さん」と応えました。因みに、少年のなりたいものは「運転手さん」でした。
昭和の30年代、結婚式は自宅や近所の料亭でお祝いをしていましたので、花嫁さんはご近所の方々に挨拶周りをしていました。子どもたちは、美しい花嫁さんの後をついて歩いたりしたものです。美しいものは、小さい子どもでも大好きなものなのです。

ひでを      
ひでをは、大変特徴ある絵を描いています。きいちに負けない大きな顔とぱっちりした眼が特徴です。

まつお   
まつおのサインは、名前の松の葉がついているので、覚えていらっしゃる方もおおのではないでしょうか。
きいちのぬりえの版元である石川松声堂の奥様が草思社が出版した「きいちのぬりえ」の中で、下記のように語っています。
『「まつお」、「たけお」の入船堂、「フジオ」が、東京ではふるくからの塗り絵屋ということになっていた』
まつおの名前は、社長さんの名前のようで、誰が描いても、「まつお」のサインで販売していたようです。いわば会社のブランドネームです。
この2枚もタッチが違うようですので、違う人が描いていると思われます。

投稿者:Nurie |投稿日:09/03/01 (日)

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