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アメリカのぬりえ展

ニューヨークでのぬりえ展を記念して
「アメリカのぬりえ展」
会期:平成18年8月5日(土)~10月29日(日)

皆様のお蔭をもちまして、ぬりえ美術館は4周年を迎えることができました。
ぬりえは子どもなら誰でもがするものであり、大事な子ども時代を一緒にすごす大切なものでありながら、ぬりえに関する文献もありませんでした。
しかし同じ時期に楽しむ絵本とぬりえでありながら、どうでしょうか?
絵本は素晴らしい文献に恵まれ、博物館も各地にあり、世界に向って発信をしています。海外の絵本の原画展では、日本人がグランプリを獲得するなど、多くの日本人の絵本作家が活躍をしています。
 最近、子どもばかりでなく大人がぬりえをすることが人気となりつつありますが、これは大人たちが、やっとぬりえの文化性に気がつきはじめているのではないかと思っているといるところです。

ぬりえ美術館では、「ぬりえを文化に!」を目標に活動をしています。昨年は、ぬりえの源流からぬりえの未来までを書いた初めてのぬりえの専門書の「ぬりえ文化」を出版いたしました。
 最近では、大学生が卒論などでぬりえを研究する際にこの本を参考にしたり、ぬりえ美術館を訪れたりと、新たな動きも出てまいりました。
 そして、4周年目となります今年は、「ぬりえを文化に!」の活動の一環として、世界に飛び出します。まずは、ニューヨークです。
 これまで、世界各国のぬりえを研究してまいりましたが、きいちのぬりえは世界中で最も優れたぬりえであることを確信いたしました。
 きいちが描く繊細な輪郭線、50年代のファッションや生活が思い起こさせるノスタルジー、独創的な少女の顔、そしてそのしぐさ…。これらが世界で認められている日本のポップカルチャーの「かわいい」の源流となっているのです。
 きいちのぬりえを、日本発の、時を越えて人々の心を惹きつける普遍の美しさを備えた、独創的なアートとして、世界に発信していこうと思います。

 ニューヨークは、ビジネスばかりでなく現代アート、エンターテイメントにおいても世界の中心地となっており、アートが非常に大きな影響力をもっているところであります。是非大勢のニューヨークの人々の見ていただきたいと思っています。

 このニューヨークでの展覧会を記念して、今回の企画展は「アメリカのぬりえ展」と題しまして開催し、皆様にアメリカのぬりえをご覧いただきます。ここに展示されているのは、今アメリカで売られている現代のぬりえでございます。
テーマがいろいろあるという、幅広さが海外のぬりえの特徴の一つですが、アメリカらしいテーマ、絵を存分にお楽しみください。


1.アメリカのぬりえの歴史
 ~ぬりえ本の収集より -Dian Zillner 1992年-~

アメリカの出版界に子供の塗り絵本が登場して既に100年以上になります。
塗り絵本は当時アメリカでは「Painting book」と言われていました。

1.1 マクローリン社
1890年代、子供向出版の競争の激化に伴いマクローリン社は値段を安く抑えた子供向の読み物や塗り絵本の出版のが必要だと感じ、子ども向けの本を出版いたします。
「こどもの塗り絵(The Little Folk's Painting boo)」の本の中で、にマクローリン社は以下のように書いています。
「面白くて実用的で、子供のお絵かきの技量が試せ、同時に値段が安い子供向の塗り絵本が必要であると長い間感じてきました。子たちが黙って夢中になれる本は世のお父さんお母さんたちがずっと待ち望んでいたものです。私たちは絵をできるだけ多くするためは全く読物のない本が良いと考えました。読み書き練習本のように、自分の絵の具で塗り絵することは世の子供たちに最も好きなことです」と言っています。

当時は、塗り絵本には先ずカラーのイラスト頁があり、続く頁に子供が自分で色を塗る小さな白黒のイラストの頁が続きます。それぞれの絵の大きさは3インチ×3インチ(7.5cm×7.5cm)と小さく、子供には塗るのが難しいものでした。使われたケイト・グリーンアゥエイの絵に細かなディテールが多く描かれていたこともこれらの塗り絵をさらに難しくしていたようです。1890年代初期には他の出版社からも安価な塗り絵本が出版されていました。

見本のようなカラーページがついていて、白黒のイラストページからなるぬりえ本が初期のぬりえといえるようです。絵は、イギリスで人気であったケイト・グリーンアゥエイをコピーしたようですが、子どものぬりえには、小さくて細かい線ということで難しかったようです。


2.画材
1903年、ビニー・スミス社(Binney and Smith Co.)が始めて子供用のボックス入クレヨンセット(クレイオウラ、またはクレヨラとも)を製造販売しています。
しかしその後ずっと「絵の具箱」は子供たちのお気に入りの塗り絵道具であり続けました。クレヨンが絵の具箱にとって替わったのは20年後のことで、1930年まで多くの塗り絵本には「絵の具(paint)またはクレヨンで使用します」という表示がされていました。
アメリカでpainting book とぬりえが言われた背景には、画材の影響もあったのですね。絵の具(paint)を使ったのでpainting book だったのです。
今年の7月から、この、ビニー・スミス社のクレヨラは、日本のぬりえの出版社の㈱セイカから新発売されました。子どもの画材として、ぴったりということのようです。
日本では明治時代に外国の図画の翻訳教科書をなぞるところからぬりえが発祥していますが、大正期にクレヨンが外国から入り、日本でも生産するようになり、子どもの画材として相応しいというこでクレヨンにより、ぬりえも格段に普及していくことになります。

2.1サールフィールド出版社
子供向出版業界でもう1社重要な会社は1900年に設立されたサールフィールド出版社(Saalfield Publishing Co.)があります。1902年に最初の子供向の本や紙人形や塗り絵などの読み物以外の出版を始めています。
1934年、サールフィールド社はシャーリー・テンプル(Shirley Temple)の独占出版社として成功し、シャーリー・テンプルの塗り絵本、紙人形その他を出版しました。

1930年代の世界のアイドルはシャーリー・テンプルでした。彼女は、きいちの絵の一つの参考でもありますが、ぬりえ本まででていたのです。

2.2 メリル社
メリル出版社(Merrill Publishing Company)は比較的遅くこの子供向出版の分野に入った会社ですが、紙人形、塗り絵本双方の市場で今日最も求められた本のいくつかを出版しています。
メリル社は1935年に始めて紙人形と塗り絵本を出版します。レジンスタイナー社で使われた美しいインクとその抜きん出た美しい絵によってメリル社の絵本がそれまでにアメリカで出版された塗り絵本の中の最高の塗り絵本のいくつかに位置付けられ、この高品質の塗り絵本でメリル出版社は1930年代から1950年代まで2番目に大きな子供向出版社となります。
メリル社の塗り絵本はその美しさに加えて絵が大きくシンプルで全ての頁が子供にとって色塗りし易いものでした。メリル社の塗り絵本にはもはや子供のお手本にするカラーの絵はなく、その代りに子供たちには自分が思い描く絵の完成品に最も合った絵を完成させるために自分自身の想像力を使うことが求められました。
1935年までには今日私たちが知っている塗り絵の形式が確立され、この形が今日まで変わる又、メリル社の出版物で最も有名で記憶にとどめられているものは多くの著名人の塗り絵本です。

従来のカラーの見本がついているものから、やっとこのメリル社の登場で今のぬりえ本のスタイルが生まれてきます。カラー見本がありませんから、自由に自分の創造力を発揮してぬりえを楽しめるようになっていきます。
この本によりますと、エリザベス・テーラーやチャップリン、ドリス・デイ、ジョン・ウェインなど1940~50年代にハリウッドで活躍した俳優や歌手のぬりえ本が沢山出版されていたようです。
日本でも古くは美空ひばりのぬりえや80年代の郷ひろみなど、芸能人のぬりえがありますが、アメリカは日本の比でなく、著名人が数多く売れれていたようです。今で言えば、キャラクターぬりえに相当するようなイメージではなかったでしょうか。

3.新発見!

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アメリカのぬりえ本の整理しているときに、大発見をしました。ぬりえの発生時期が大幅に遡るという新説がでてきたのです。
「Aesop's Fable Coloring book」の中の編集者の編集後記のようなページに、
「15世の人々も家でこのようなcolor bookをしていた!」と!マーク付きで解説がされていたのです。
私が調べて書いた「ぬりえ文化」の二章において、ぬりえの源流を書いていますが、その中で、17世に絵のある本、挿絵入りの本がでてきて一般的な人まで本を読むようになって、その挿絵に色をつけたものがみえるということを発表してきています。
ところが、これよるさらに遡ること200年、15世紀にすでにあったとかかれていますので、
この件は、今後調べて行きたいと思います。


4.アメリカのぬりえの展示
1.自然・動植物       2.自然、動植物・キャラクター
3.キャラクター・歴史・地理 4.人物・その他

今回の展示は、展示室の中央の什器を使って展示されていますが、テーマごとに4つに分類されています。
   
4.1自然・動植物
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子どもの教育的な面を考えますと、自然や動植物のぬりえが多いことは当然かと思われます。馬や鯨など一般的に興味の高いものが描かれています。今年ドイツの出版社を訪れたときにも、「なぜ馬が多いのか」をお聞きしたことがありますが、ヨーロッパでは一般的によく乗馬をしたりするそうなので、子どものころから馬を身近に感じているという回答がありました。そうした人々にとって、馬は大変身近な動物ということになります。
ハワイの花のぬりえは、ハワイのお土産でした。その土地
独特のものをぬりえにしているいいアイデアだと思います。

4.2自然、動植物・キャラクター
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レインボーフィッシュは、すでに絵本としてお馴染みかもしれません。その他赤鼻のトナカイ、マザーグース、スクービーなどのキャラクターを展示しています。
日本でもレストランでぬりえが出されるようですが、ファーストフード店、ステーキ屋さん、メキシコ料理店からも子どもさんが飽きないようにぬりえが用意されています。


4.3キャラクター・歴史・地理
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「スターウォーズ エピソード1」のようなキャラクターや歴史に関係するもの、タイタニックや南北戦争の著名女性(その他のぬりえ参照)、世界の地理など、これらは勉強も兼ねたぬりえ本のようです。


4.4 人物・その他
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人物やその他ちょっと変わったぬりえをご紹介しています。日本でも水ぬりえというものがありますが、「Paint with Water」というタイトルで、水で塗らすと色がでてくる仕掛けになっています。3D幾何学的デザインやゴーギャンなど、名画のぬりえに属するものを展示しています。


現代のぬりえの殆どがA4サイズの本のタイプになっているため、たくさんの本を展示することができませんでしたが、それでもいわゆるキャラクター一辺倒でないということを感じていただけるものと思います。
絵の内容によっては、特にアメリカ(ヨーロッパでもそうですが)では、大人のぬりえと言っているものはまだありませんが、充分に大人がぬってもよさそうなものがあります。私も、バレエや妖精の話など、塗ってみたいと思います。地域の特性や歴史など、ぬりえをとおして子どもたちに学んでもらえるいい手段だと思います。

これからも海外のぬりえを収集し、皆様にご紹介をしていきたいと思っています。来年は、ドイツでのぬりえ展の開催を計画しています。ドイツのぬりえを見ていただく機会がくると思います。どうぞお楽しみに。
それでは、平成18年8月~10月まで開催の「アメリカのぬりえ展」をごゆっくりご覧ください。(館)

その他のアメリカのぬりえ
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「ベルベットうさぎ」

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「南北戦争の有名な女性」

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「小人、木の神様と妖精たち」

投稿者:Nurie |投稿日:06/08/18 (金)

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