きいち千夜一夜 No.12 きいち生誕105年
今年はきいちの生誕105年に当たります。これにちなみまして、「きいち千夜一夜」と題しまして、きいちについてご紹介していきたいと思います。
きいちの魅力
小さなものたちが動く小空間を眺めたり、想像したりするのが楽しい。物語でいうと「ガリバー旅行記」なんかがいいかな。だから、ぬりえやきせかえの仕事も楽しんでやれたのかもしれない。
昭和二十年代の中ごろ、ぬりえブームが起こると、取り立てて絵の勉強をした者でなくとも、器用に子供向きの絵を描きこなせるものはこぞってぬりえ作家になりたがった。発売元への売り込みも多く、メーカー側もうれそうなものならどんどん商品化を進め、最盛期には四十人以上のぬりえ作家がいたといわれる。
絵を描きたいというよりは、短期間で金を稼ぐ方法としてぬりえ作家を志す者もいて、稼ぐだけ稼いだら、ぱっとやめてしまおうと、ひそかに貯蓄プランを練る者もいたようだ。
だが、いくら子供相手の商売とはいえ、そう甘くない。思ったほど子供に受けがよくなかったり、一時的に売れてもすぐに飽きられて、注文がこなくなってつぶれていくケースも少なくなった。
第一線で活躍する喜一の絵を見て、”この程度なら自分にも描けそうだ”と高をくくってこの道に入ってくるものもいたが、実際にやってみると、喜一を超えるその壁がどんなに厚いか気付かされる。中には捨て身になって、どさくさ紛れに喜一の模写で人気に便乗してしまおうといった不届き者もいたが、子供の目はごまかせず、計画は失敗に終るのだ。
「真似だけなら、まあ、仕方ないかと思えるんですけどね、私の名前を使って、まったく別のタッチで描いてた人もいたようで、これにはちょっと困ってしまいました。当時は、私も忙しかったから気付かなかったんですけどね、三十年以上経って個展会場に足を運んでくれた人が、”これ、喜一さんの絵、珍しいタッチのを私は持っているんですよ”とみせてくれた中に、にせものが混じっていると複雑な気持ちになる。めずらしいはずですよ、私が描いたものじゃないんですから。そんなときはなんだか申し訳なくて。にせものを私の絵とずっと信じていたなんて、気の毒じゃないですか」
*参考図書「わたしのきいち」小学館
今月のエントランス
「ぼくはたいしょうだよ」
作者:きいち
年代:昭和30年代
馬の姿勢のなったお姉さんの背に乗る弟。背が高くなって大将のように偉くなった気分なのでしょう。ハイ、どうどう、と言っているのかしら。
ぬりえ美術館情報
☆10月に開催いたしました第10回ぬりえコンテストは沢山のご応募を頂きまして、195点の作品が集まりました。
選考の上、来年1月~2月の期間ぬりえ美術館に優秀作品を展示いたしますので、どうぞお楽しみにお待ち願います。
展示室のご案内
☆11月~2月は、常設展示を開催しています。美しいお姫様の世界、お洒落なドレス、着物などのぬりえを展示しています。
☆館内にはぬりえ体験コーナーがあり、自由にぬりえを塗って楽しんでいただけます。