2.きせかえの原画
きいちがきせかえについて、小学館「わたしのきいち」にそのいきさつが書かれていますので、ここでご紹介したいと思います。
「きせかえは私自身が復活させたかった。当時、ぬりえと違ってきせかえは下火でしたからね。実際の人形遊びもたのしいけれど、紙の世界にも昔からこんな遊びがあるんだと、子どもたちに知ってほしかった」
きせかえについては、B4程度の大きさのものを石川松声堂と山海堂、それぞれに毎月四枚ずつ納めた。ぬりえはジンク版という金属の板に特殊な墨を使って絵を描くまでがきいちの仕事。描いた部分が腐食するので、それを印刷するのだ。五色刷りの袋の場合は、喜一が紙に五色で描いたものを、職人がそれぞれの色に描き分けてから印刷するが、いずれにしろぬりえはそれほど喜一の手をわずらわせるものではなかった。
しかし、きえかえとなるとそうはいかない。人物や洋服の型をおこして、一つ一つ紙の上に置いては寸法を取っていく非常に手間のかかる作業だ。できるだけ余白を少なくして、さまざまな要素を盛り込むことも大切で、喜一のきせかえにはお洒落な洋服や着物に混じって、ブーケや帽子、ハンドバッグ、人形といった多くの小物が添えられていた。
「私の描くのは女の子だけじゃなかったでしょう。お父さんお母さん、お兄さんやお姉さんといった家族もちゃんといてね。そういうものを描き入れるときには、一応家族構成なども考えながら描いていたの。リカちゃんファミリーならぬ、きいちファミリー。サラリーマン家庭なら、お母さんはこんな感じで、子供にはこんな服を着せるだろうなとか、芸術家の家庭だったらどうだろうなんて、いろいろ想像しながら描くのが楽しいんだ。
それからきせかえを描いておもしろかったのはバッグの色なんですが、オレンジや黄緑などの中間色を使うとあまり売れゆきがよくなくてね。赤や青といったほうがだんぜん受けがいい。“きいち”の絵には、やっぱり原色が似合うってことなんでしょうね」
きせかえもただただ女の子と洋服、着物を描けばいいというものではなく、ちゃんとその少女の家族背景も考えて描いていたという所は、とても興味深い話ですね。
今回展示していますきせかえの原画では、少女、お友達、お姉さん、お父さん、お母さんという家族とお道具というとらえ方で展示をしています。お道具や小物たちでさえも時代の先端を行くものが多く描かれていました。自分の家にはまだ購入されていない白物家電や外国の映画のなかでしか見られないようなものも描かれていたりして、そういう点も少女たちの感性を刺激していたと思います。
~お誕生会のようなパーティの様子や、レンジや洗濯機、炊飯器など~
色鮮やかなきいちの原画を見ていますと、子どものころにもどって遊んでみたいなという気持になりませんか。原色が子どものころの感性を刺激するのかもしれません。
きいちの精緻な手仕事の世界をどうぞ心ゆくまで味わいください。 (館)