東京都荒川区町屋 土日曜のみ開館
開館時間:(3月~10月)12:00~18:00 (11月~2月)11:00~17:00

ぬりえ美術館

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美術館便り3月~5月合併号 (3)

2-3 MOKU 1998年9月号
・昭和六年、その年の帝展に姉に連れていってもらい、美人画と出合ったのです。ああ、美人画というのは、こんなに美しいものかと感じ、私の行く道はこれだと、一種の霊感に打たれました。それは、鏑木清方の弟子で伊藤深水の兄弟子に当たる、山川秀峰の「素踊」という作品でした。


・昭和十五年にフジヲのペンネームでぬりえを描き始めました。ほんのアルバイト的な取り組みでしたが、美人画を基にしたフジヲのぬりえは、それまでのモノの形を型取っただけのぬりえと違っていたからでしょうか、人気が出かかったのです。でも、すぐ大東亜戦争が始まってしまって、物資統制時代になり、ぬりえ屋は店を閉めてしまいました。


・戦後一年は、進駐軍の兵隊さんが持って来る奥さんや恋人、娘さんなどの写真を基に肖像画を日本画で描きました。
 師団が月島をさると、兄に自宅でぬりえをやってみたらどうだと、印刷だってウチでできるといわれましてね、四枚綴りの「おとぎ絵」を工夫しました。


・シンデレラとか白雪姫とかおとぎ話を四枚のぬりえに仕立てたものをつくって、蔵前の玩具問屋へ持っていき、昔のフジヲですということで店に置いてくれたのです。
それがどんどん売れ出すと、今度は玩具問屋のオーナーのほうから、ぬりえの版元にしてくれという話が出てきました。それも二つのところから。そこで本格的にぬりえに取り組むこととして、ネームも本名の"きいち"で始めました。


・ピークのころには、月に百二十枚。一晩で(ジンク版)八枚。一枚に四区画の絵ですから三十二枚描いていたわけです。
版元は四種の袋をつくって八枚のぬりえを入れて五円でうります。始めのうちはそれが
八十万部ほどでしたが、やがて、百六十万部、二百二十万部と売れたのです。

・小売屋の仕入れは、「きいちのぬりえ」が二円七十銭。ほかの「ぬりえ」は二円五十銭と安いのに、「きいち」のほうが売れたといいます。


・宝塚歌劇団のモットーは「清く正しく美しく」だそうですが、私もこれなんです。モットーは。
昭和四十年にばったりとぬりえが流行らなくなって、もう一度美人画に戻ろうとしたんですけどね。そして、いまもまだ美人画を描いていますが、中心になるのは童女画で、はやりこれはもう生涯この絵柄からは、抜けられないのでしょうね。


・童女画の作業手順
まず鉛筆で仕上げた下書きを木枠に張った絹布の下にきちんと止める。すると布の上から下絵が透けてみえる。
その輪郭を鉛筆でとる。昔はここは筆でいきなり描いたものだという。
筆を入れる順は、まず目。目というよりは瞳の部分。「目がまず決まらないと・・・」
次が眉、鼻のライン、口唇、両頬、顎、頭髪、リボン、耳、襟首と次第に頭部が形をなしていく。


マスコミに取り上げられたお蔭で、きいちのぬりえを描いていていた当時の様子が残され、どのようなことからぬりえの世界に入ることになったのか、どんな思いで描いていたのか、当時の様子を知ることができます。


「持っているだけで楽しい絵」 
私は、もっと、心のこもった絵を、小さい子どもたちに見せたかった。一所懸命描いてはいたが、やはり商業ベースだから数をこなさなければ、というところもある。
 私は、いいえが描きたかった。色をぬるためというのは、二の次でよいと思った。色をぬってもぬらなくても、持っているだけで楽しい、という絵を描きたかった。いやな絵を買って、色をぬってもしかたがない。子どもたちが、好きになった絵を選んで、楽しんで、色をつけたいこどもは色をつければよい、と思った。


「美しい絵を描きたかった」 
ぬりえは子どもの創造性を阻害すると、悪者視されるのを聞いたりすると、私はふるい立った。ぬりえは、絵画の教育ではない。教育とは無縁のもので、あくまで子どもの遊びである。幼い子どもの情緒を養う、心の遊びだと主張したりした。
もし、私が「ぬるための絵」とだけ考えて絵を描いていたら、もっと違った、教育的なものを描いたと思う。しかし、私は美しい絵を描きたいから描いてきたのだった。美しい大人なり、子どもなりの絵を描きたかったのである。


きいちはぬりえに対して、上述のような気持ち、思いをもって描いていました。きいちを言葉は、「きいちのぬりえ」と共に永遠に残っていくものと思います。(館)

Posted: Nurie : 14年03月05日 | 美術館だより

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