今年の春の企画展は、「きいちの少女は何故可愛いの?」と題しまして、開催しています。
昭和20~30年代の少女にとっては、きいちのぬりえは当然のように「可愛い」と思ってぬりえをしていたものです。それを今回わざわざ「きいちの少女は何故可愛いの?」と題した背景には、今の子どもたちや当時を知らない世代にも、きいちの可愛さが伝わっているということを実感しているからです。
1.きいちの少女は何故可愛いの?
今回の企画展では、絵のテーマを5つほど取り上げながら、その中に描かれたきいちの少女を見ていただくことによって、きいちの可愛さをさらに理解していただけたらと思っております。
まず、きいちの可愛さの理由の一つは、ぬりえに描かれた少女がとても"美人"であることだと思います。きいちのぬりえの少女の特徴は、「顔が大きく、目がパッチリとした三・四頭身の少女」という特徴を捉えて、きいちの少女は美人でないと考えている方もいるようですが、ぬりえを良くみてみると、そこに描かれた顔は基本的に美人です。
さらに少女のしぐさにご注目ください。とてもエレガントで優しいのです。昭和20~30年当時子どもの頃から躾が厳しく、特に女の子は女の子らしくということで、「○○をしてはいけない」という禁止事項が多くありました。そのような経験をした私が見ても、きいちの少女はしぐさがより女性らしく描かれていると思います。それは"美的に見て美しい"という考えがきいちにあったのではないかと想像しています。
2.今回のぬりえのテーマ
絵のテーマは、「お洒落」、「ワンランク上の生活」、「流行」、「着物」、「お食事」の5つです。
"きいちのぬりえ"は、毎月2つのメーカーより各4袋、合計8袋のぬりえが販売されていました。
毎月のことですから、それぞれの月の行事ですとか、流行の商品やおもちゃ、お洒落なファッションなどや今現在の生活や風俗などが描かれていました。
現実の生活は自分でもよく分かっていますから、それより現実にはない夢のような生活やファッションなどのほうが、ぬりえとして良く売れたようです。子どもが塗るぬりえですが、子どもの学校生活を描いたようなぬりえは余り人気がなかったそうです。子どもたちが見たい、知りたい、塗りたい絵は、空想の世界であり、自分の経験したことのない世界であったのです。その気持ちは、大人の気持ちとしても同じではないでしょうか。
「お洒落」と「ワンランク上の生活」とは、少し重なる部分がありますが、まだまだ貧しい時代でもあり、又現在と違い東京と田舎の生活の格差や情報の格差がある時代でしたから、ぬりえの世界だけは現実の生活とは少しばかり離れた素敵な世界を描いて、少女たちに夢の世界を見せていました
3.「着物」と「流行」
きいちのファンには、きいちの描く着物姿が好きだという方が多くいらっしゃいます。きいちの描く着物姿は、夏には浴衣姿も描きますが、その多くは豪華で優美な着物を描くので人気となっているのではないかと思います。
昭和30年代には着物ブームがあり、学校のPTAの集まりや入学、卒業式には、お母さん方は必ず着物を着ていたことがありました。子どもたちは七五三やお正月などに着物を着ていました。また踊りやお茶などのお稽古事で着物を着る機会も多くあったと思います。子どもの着物姿もいいものですね。
「流行」というぬりえでは、洗濯機やジューサーなどの家電の最先端のもの、カメラ、八ミリなどの商品、だっこちゃんやおばQなどのおもちゃの流行のものなどのぬりえを紹介しています。そのような最先端のものを誰もが持っているという時代ではありませんでしたので、ぬりえを塗って自分のものになったような気分を味わっていたのですね。
4.「食べ物」
食べ物のぬりえも少し紹介しています。何故食べ物?と思われるかもしれませんね。当時としては、りんごでさえも高級果物であったので、誰でもが購入できるものではなかったのです。さらにアイスクリームやデコレーションケーキなど、冷蔵庫が店頭や家庭にある時代ではありませんでしたから、いつでも食べられるというものではなかったのです。
埼玉の田舎にいる頃に、最初に食べたアイスクリームは、シャーベットのような氷を固めたようなものでした。それが四角い経木の箱の中に入っていて、5円か10円くらいのものでした。滑らかなアイスキャンデーがでてくるのは、その後何年もたってからのことです。
ですからおいしい食べ物の絵が描かれたぬりえを塗ることも、子ども達にとっては夢のようなことだったのです。
きいちの世界では、お洒落なドレスを着た少女がアイスクリームやホットケーキなどを食べています。 あの当時は「ぬりえに描かれたものが全てあったわけではない」という目で絵を見てみると、別の思いが伝わってくるのではないでしょうか。
きいちの少女の可愛さの秘密を発見することが出来ましたでしょうか。(館)